◆ 確定拠出年金の加入者資格と選択制
下記「a」の「確定拠出年金加入者資格の与え方」の回答で、何らかの制約を設けている規約が6割以上もある(制約のない「全員加入」は3割強しかない)のは驚きです。
「その他」とされている加入者資格の割合も高いですが、どのような制約を設けているのか内訳に興味がありますが、複数の制約を組み合わせているケースなのかもしれません。
加入者資格のうち、例えば「希望する者のみ加入」は、前払い退職金などとの選択制による場合と考えられますので合理性がある加入者資格です。
「一定の年齢未満のみ加入」も確定拠出年金制度を設立する際に50歳以上の従業員が60歳から老齢給付金を受給するために必要な10年以上の通算加入者等期間を満たすことができないことを理由として設ける場合などは合理性があります。
また、「一定の職種のみ加入」についても給与水準等労働条件が別に規定されているなど他の職種と異なることを理由として設ける場合はこちらも合理性があります。
しかし、確定拠出年金では加入者資格により特定の者を除外するとき、原則として確定拠出年金の掛金と概ね同額の金銭などによる代替給付が必要になりますので、「一定の勤続年数のみ加入」による加入者資格を設けるのは一般的には合理性に欠けるように思います。
ただし、短期勤続による退社が比較的多いときに加入者教育に係るコストを抑えるために一定の勤続年数による加入資格を設けて在籍率が安定したときに加入させる場合や、加入対象者数が多いときに投資教育期間が限定されるため一定の期間による加入資格を設けて事前に十分な投資教育期間を設けてから加入させる場合などは、それなりに合理性があるでしょう(微妙ですが・・)。
なお、「その他」はその内訳がわからないので言及できません。
下記「b」の「確定拠出年金加入選択制の有無」によると「加入選択制あり」が3割以上ありますが、そのうち8割近くが確定拠出年金に加入をしていることが「c」の回答でわかります。
単純に計算すると加入対象者のうち確定拠出年金に加入しない方は1割に満たないことになります。
運用に不安があるものの、税制の優遇措置などに確定拠出年金のメリットを感じている方が多いのかもしれませんが、加入者の意識調査を待つ必要があります。
加入しない理由は、例えば将来の老後資金のための運用より目先の住宅ローンの返済や教育資金に充てたりすることなどが考えられますが、加入しなかった方たちの意識調査も欲しいところです。
下記「d」は、「前払い退職金と確定拠出年金掛金との割合変更」についての調査です。
「できない」という回答がほぼ9割ですが、これは前払い退職金などとの選択制そのものがない場合と前払いか確定拠出年金かのいずれかを選択させる場合の2パターンを含んだものであろうと考えられます。
回答のうち1割程度は割合や額で変更できるようですが、所得課税や広義の社会保険料負担との関係などから前払い退職金と確定拠出年金制度の掛金相当額との選択割合の設定によって人事政策上に悪影響を及ぼすことがないような選択方法の構築と周知に留意する必要があります。
なお、事業主が負担する法定福利費等を軽減することを目的として現行の給与の一定額を確定拠出年金の掛金に振り替える「給与振替スキーム」と称する提案が一部の運営管理機関やコンサルタントから行われているようですが、安易にこのような提案を採用することは確定拠出年金制度の本来の趣旨を逸脱することになります。
おそらく、ある服飾メーカーが採用した方式の上辺だけを取り入れたものだと思いますが、そもそもは従業員の働く意識や給与などに対する明確な考え方と思考から生まれたものであり、人事政策として退職給与を含めた給与制度の全般的な再構築の中で検討すべきものであることを理解してください。
a:確定拠出年金加入者資格の与え方(複数回答可587)
全員加入・・・・・・・・・・37.1%(有効回答218)
その他・・・・・・・・・・・21.1%(有効回答124)
希望する者のみ加入・・・・・19.4%(有効回答114)
一定の年齢未満のみ加入・・・10.1%(有効回答 59)
一定の職種のみ加入・・・・・ 9.6%(有効回答 56)
一定の勤続年数のみ加入・・・ 2.7%(有効回答 16)
b:確定拠出年金加入選択制の有無(有効回答517)
加入選択制なし・・・67.1%(有効回答347)
加入選択制あり・・・32.9%(有効回答170)
c:「加入選択制あり」のうち確定拠出年金加入選択率(有効回答155)
平均76.41%
d:前払い退職金と確定拠出年金掛金の割合を、従業員が任意に変更できるか(有効回答515)
できない・・・・・・・89.3%(有効回答460)
割合で変更できる・・・ 8.0%(有効回答 41)
定額で変更できる・・・ 2.7%(有効回答 14)
次回も引き続き企業年金連合会の「確定拠出年金に関する実態調査」結果概要から「確定拠出年金等の企業年金実態調査(5)」として調査結果をご紹介します。
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◆ 確定拠出年金の設立方法と他制度との関係
下記「a」、「b」による実態調査の回答では、「確定拠出年金制度の設立方法」の4分の3以上が資産移換により設立されていますが、「資産を移換した制度」は6割以上が適格退職年金で、平成24年(2012年)3月末の制度廃止に向けて今後も高い占率を維持した状態が続くでしょう。
また、「a」によると「確定拠出年金制度の設立方法」のうち8割以上が従前の制度を解約(廃止)していますが、「c」を見ると「確定拠出年金制度の導入後」も6割以上は他制度を併用していることがわかります。
先の「日経企業年金実態調査」と同様に、この「確定拠出年金制度に関する実態調査」においても確定拠出年金への一本化が難しい状況にあるようです。
下記「d」の「確定拠出年金制度と併用される制度が1制度」のとき、併用される制度は6割近くが退職一時金制度です。
これはさまざまなケースが考えられますが、例えば適格退職年金を解約して確定拠出年金制度を設立しても、適格退職年金の解約時の精算額が、過去に退職一時金制度から適格退職年金制度に移行したときの割合(全部移行または内枠移行の割合)との関係から当該移行割合による計算額を下回る場合などでは退職一時金制度の一定割合を残すか、不足分を退職一時金制度で手当するケースが多いためだと考えられます。
このような結果からも退職一時金の占める割合は、比較的高い割合を維持することになると思われます。
なお、下記「e」のとおり併用される制度が増えることにより、当然ですが「他制度と併用している確定拠出年金の採用割合」は低くなっています。
a:確定拠出年金制度の設立方法(有効回答506)
従前の制度を解約、確定拠出年金に資産移換をして設立・・・75.1%(有効回答380)
新規に確定拠出年金制度を設立・・・・・・・・・・・・・・17.8%(有効回答 90)
従前の制度を解約、従業員に分配後に設立・・・・・・・・・ 7.1%(有効回答 36)
b:資産を移換した制度の内訳(有効回答377)
適格退職年金のみ・・・・・・・・・64.2%
退職一時金のみ・・・・・・・・・・13.3%
厚生年金基金のみ・・・・・・・・・ 7.2%
退職一時金と適格退職年金・・・・・ 6.4%
確定給付企業年金のみ・・・・・・・ 5.8%
退職一時金と確定給付企業年金・・・ 1.1%
退職一時金と厚生年金基金・・・・・ 0.8%
適格退職年金と厚生年金基金・・・・ 0.8%
その他・・・・・・・・・・・・・・ 0.6%
c:確定拠出年金制度導入後の他制度との併用状況(有効回答342)
確定拠出年金のみ採用・・・39.5%(有効回答135)
確定拠出年金+1制度・・・46.8%(有効回答160)
確定拠出年金+2制度・・・13.7%(有効回答 47)
d:「確定拠出年金+1制度」での他制度の内訳(有効回答160)
退職一時金・・・・・・58.1%(有効回答93)
確定給付企業年金・・・24.4%(有効回答39)
適格退職年金・・・・・ 9.4%(有効回答15)
厚生年金基金・・・・・ 4.4%(有効回答 7)
中退共・・・・・・・・ 3.7%(有効回答 6)
e:他制度と併用している確定拠出年金の採用割合(有効回答207)
確定拠出年金+1制度・・・平均44.4%
確定拠出年金+2制度・・・平均29.8%
次回も引き続き企業年金連合会の「確定拠出年金に関する実態調査」結果概要から「確定拠出年金等の企業年金実態調査(4)」として調査結果をご紹介します。
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今回は、企業年金連合会の「確定拠出年金に関する実態調査」結果概要からいくつかの興味深い調査結果をご紹介します。
調査方法は、2006年5月末時点の確定拠出年金実施規約1,898件をベースとして2006年8月11日に調査票を送付し、8月末日締め切りで有効回答521件(回答率27.4%)が回収されました。
◆ 確定拠出年金規約ごとの従業員数規模と設立形態
a:確定拠出年金規約ごとの従業員数分布(有効回答491)
100~299名以下・・・・29.3%
1,000名以上・・・・28.1%
300~999名以下・・・・23.4%
99名以下・・・・19.1%
b:確定拠出年金規約ごとの設立形態(有効回答517)
企業単位で1規約(いわゆる単独設立)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65.6%
グループ企業等の複数企業で1規約(いわゆる連合型設立)・・・29.2%
複数企業で1規約(いわゆる総合型設立)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5.2%
c:確定拠出年金の連合型適用事業所数(有効回答82)
2~ 5・・・・64.6%
6~ 10・・・・18.3%
11~ 20・・・・12.2%
21~100・・・・ 4.9%
d:確定拠出年金の総合型適用事業所数(有効回答19)
2~ 10・・・・52.6%
11~ 20・・・・10.5%
21~100・・・・26.3%
101~ ・・・・10.5%
上記「a」や「b」による確定拠出年金規約ごとの従業員数分布や設立形態だけでは今後の傾向が読みにくいため、設立形態ごとの従業員数分布も欲しいところです。
それにしても「b」の結果は、私の実感以上に単独設立が多いのに驚きました。
設立当初は単独で設立しても、その後に連結対象子会社、関連会社などとの連合型に変更する規約や設立時から労働組合、健康保険組合などとの連合型が多いように感じていました。
この理由のひとつとして各運営管理機関の受託競争(価格競争)があり、単独設立と連合型や総合型とのコスト差があまり開いていないためにこのような結果になっているのかもしれません。
連合型、総合型のほうがコストを低減する余地はあります。
上記「c」や「d」によると連合型、総合型とも現状では適用事業所数が少なく、スケールメリットについて言及するだけの材料に乏しいですが、今後は規約の統合によりコストの低減を図ろうとする事業主の思惑と受託先として割り込もうとする運営管理機関の思惑がぶつかり合う局面が多くなる予感がします。
また、簡便な制度設立と低コストを謳い文句にする総合型は、適格年金の廃止に向けて生保を中心とした運営管理機関が総合型を受託の選択肢に加えてきましたので、総合型をメインとする既存の運営管理機関との間で本格的な受託競争がはじまるでしょう。
次回は、引き続き企業年金連合会の「確定拠出年金に関する実態調査」結果概要から「確定拠出年金等の企業年金実態調査(3)」として調査結果をご紹介します。
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また、格付投資情報センター(R&I)と日本経済新聞社が全国の有力企業や厚生年金基金、確定給付企業年金を対象に実施した「日経企業年金実態調査」の特別リポートが年金情報に掲載されました(2006.10.16 NO.428号。調査結果は次号以降も順次掲載され11月に増刊号を発行される予定です)。
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それぞれの実態調査から、確定拠出年金も含めた企業年金等の今後が予見できるいくつかの興味深い調査結果をいくつかご紹介します。
今回は、「日経企業年金実態調査」から、現在採用している制度と今後採用(予定)する制度の占率の変動をご紹介します。
調査方法は、新興市場を含む上場企業など4,112社(非上場有力企業も)のほか、厚生年金基金683件、基金型の確定給付企業年金598件に対して2006年8月上旬に調査票を郵送し、9月中旬までに回答を回収されました。
回答数は企業603社(回答率14.66%)、厚年基金284件(回答率41.58%)、基金型確定給付企業年金366件(回答率61.20%)です。
制度の種類 (2006年調査占率順) | 2006年調査(%) | 2005年調査 占率(%) | |
占率 | 2005年対比 | ||
①退職一時金 | 42.93 | ▲6.12 | 49.05 |
②適格年金 | 32.28 | ▲5.34 | 37.62 |
③確定給付企業年金(基金型) | 23.79 | 2.36 | 21.43 |
④確定拠出年金(企業型) | 21.63 | 4.96 | 16.67 |
⑤厚生年金基金 | 17.97 | ▲2.82 | 20.79 |
⑥不採用 | 10.15 | 2.21 | 7.94 |
⑦前払い退職金 | 9.82 | 2.04 | 7.78 |
⑧確定給付企業年金(規約型) | 9.48 | 1.70 | 7.78 |
⑨閉鎖適年 | 3.99 | 3.99 | - |
⑩その他 | 3.16 | 0.94 | 2.22 |
⑪確定拠出年金(個人型) | 1.33 | 0.22 | 1.11 |
⑫税制恩典のない自社年金 | 0.50 | 0.02 | 0.48 |
制度の種類 (2006年調査占率順) | 2006年調査(%) | 2005年調査 占率(%) | |
占率 | 2005年対比 | ||
①確定拠出年金(企業型) | 62.00 | ▲2.86 | 64.86 |
②確定給付企業年金(規約型) | 51.00 | 12.49 | 38.51 |
③前払い退職金 | 12.00 | ▲7.59 | 19.59 |
④確定拠出年金(個人型) | 8.00 | 1.92 | 6.08 |
⑤退職一時金 | 5.00 | 0.95 | 4.05 |
⑥確定給付企業年金(基金型) | 2.00 | ▲13.54 | 15.54 |
⑦その他 | 2.00 | ▲0.03 | 2.03 |
⑧厚生年金基金 | 1.00 | 1.00 | 0.00 |
適格年金を保有する企業に廃止後の予定(複数回答)を尋ねたところ、以下の2つに回答が集中したようです。
「規約型確定給付企業年金に移行する」 61.46%
「確定拠出年金に移行する」 44.79%
上記は、「日経企業年金実態調査」の一部ですが、これらの調査結果も踏まえて退職給付制度等の今後の傾向は個人的には以下のように考えています。
退職一時金は、採用している制度の占率として低下傾向にはあるものの、規約型の確定給付企業年金とともに確定給付型として退職給付制度全体の中で比較的大きな存在感を維持することになると思われます。
確定拠出年金の増加傾向が著しいものの、確定給付型との併用が中心となり、当面は複数の退職手当制度を確定拠出年金に一本化させることは難しいと思います。
特に従来から各種制度が手当されている多くの企業では、確定拠出年金導入時の労使交渉において、加入者が負担することになる運用・コスト等に係るマイナスイメージがあるため確定拠出年金の段階的な導入で提案せざるを得ない状況にあるのではないでしょうか。
また、適格年金等から確定拠出年金に移行する際に確定拠出年金の掛金を決定するための要件の一つである想定利回りと確定拠出年金における平均的な加入者の実質運用利回りとの格差、さらには一部の運用成果が高い加入者と平均的な加入者との格差が拡大する傾向にあり、この面からも確定拠出年金に一本化した導入は難しい状況にあります。
厚生年金基金は、単独・連合型の代行返上と解散が一段落したため、基金型の確定給付企業年金とともに退職給付制度全体の中でその占率が相対的に微減していくでしょう。
一方で退職給付制度の不採用と前払い退職金が増加傾向にありますが、アンケートでそれぞれがどのように定義され、理解されたか不明であるため個々の傾向を予見することは差し控えます。
ただ、前払い退職金と他の退職給付制度との選択制を採用する(している)場合は、所得課税や広義の社会保険料負担との関係などから前払い退職金を選択した者と他の退職給付制度を選択した者とでモチベーションに影響を与えないような選択方法の構築と周知に留意する必要があります。
次回は、「確定拠出年金等の企業年金実態調査(2)」として、企業年金連合会の「確定拠出年金に関する実態調査」結果概要からもいくつかの興味深い調査結果をご紹介します。
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さて、前回の続きです。
(3)確定給付型の退職給付制度間の移行による場合
(ア)確定給付型の退職給付制度を他の確定給付型の退職給付制度に移行
会計処理上は原則として移行前後の制度を一体のものとみなし、移行前の退職給付制度は退職給付制度の終了には含めません。
ただし、移行前後の制度が名目的にしか引継がれていない場合(注)は、移行前の制度の終了と移行後の制度の導入とされます。
なお、確定給付型の退職給付制度を他の確定給付型の退職給付制度に移行した際の退職給付債務の増額または減額も名目的にしか引継がれていない場合を除き、過去勤務債務として会計処理することになります。
(注)「移行前後の制度が名目的にしか引継がれていない場合」
現行の確定給付型の退職給付制度を廃止すると退職給付制度の終了として未認識項目を一時認識しなければなりません(一般的には特別損失)が、現行制度のごく一部を存続させることにより移行後も確定給付型の退職給付制度が存続することを理由として未認識項目を引き続き遅延認識することは不合理と考えられたためです。
(イ)確定給付型の退職給付制度を複数の他の退職給付制度に移行する場合
それぞれの移行ごとに制度の終了を判断します。
(例)
確定給付型の退職給付制度(例えば適格退職年金制度)の
①一部を確定拠出年金制度へ資産を移換し、
②残りを他の確定給付型の退職給付制度(例えば確定給付企業年金制度)へ移行した場合
は、移行前の制度のうち前者は退職給付制度の終了(一部の終了)となり、後者は退職給付制度の終了には含めません。
次回は、「退職給付制度間の移行等に関する会計処理5回目(退職給付制度の終了とは③)」として「大量退職」について解説をします。
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退職給付制度の終了には、退職給付制度の「全部終了」だけでなく、退職給付制度間の移行または制度の改訂により、退職給付債務の一部に相当する額の支払等を伴って該当部分が減少する退職給付制度の「一部の終了」も含まれます。
1.退職給付制度が廃止される場合(全部終了)
退職給付債務の支払等を伴わずに退職給付制度が廃止された場合を含みます。
(1)退職金規程の廃止
(2)厚生年金基金制度の解散(代行部分を除く)
(3)適格退職年金制度の全部解除
(4)確定給付企業年金制度の終了
2.退職給付債務が支払等を伴って減少する場合(一部終了)
「支払等」には、以下のようなものが該当します。
① 年金資産からの支給または分配
② 事業主からの支払または現金拠出額の確定
③ 確定拠出年金制度への資産の移換
など
具体的に見てみましょう。
(1)年金資産からの支給または分配をする場合
退職給付年金制度が廃止される場合は、すべての年金資産を従業員に分配することされています(厚生年金基金制度の解散における代行部分を除く)。
過去勤務期間分の給付減額を行う場合(積立不足の解消)については、厚生年金基金制度と確定給付企業年金制度(規約型、基金型)では、一定の手続きにより年金資産の分配を伴わないことができるとされていますが、適格退職年金制度では、年金財政上の債務の減少に見合う額を従業員に分配することとされています。
このように年金資産からの分配がある場合には、その部分は退職給付制度の終了に該当します。
(2)確定拠出年金制度への資産の移換をする場合
確定給付型の退職給付制度の過去勤務に係る部分を確定拠出年金制度に移行する場合は、個人別管理資産への移換が行われるため、当該移換部分については退職給付制度の終了に該当します。
なお、退職一時金制度から確定拠出年金制度への移行による資産の移換は、退職金規程の改訂または廃止された日(移行日)の属する年度から4年度以上8年度以内の企業型年金規約に定める年度まで分割して移換されますが、退職給付制度の終了に該当するのは、分割移換した時点ではなく、事業主からの現金拠出額(移換額)の確定した時点となります。
ただし、分割移換の移換額は未払金等に計上されますが、企業型年金規約に定める年度まで利息相当額を付与する場合は、利息相当額を発生基準により計上することになります。
次回は、「退職給付制度間の移行等に関する会計処理4回目(退職給付制度の終了とは②)」として微妙な「一部終了」について解説をします。
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最近、国民年金の記事が続いたためか、Googleさんは変わらずですが、Yahooさんはなかなかシビアですな。
偏りすぎはいけないということなのでしょう。
久しぶりに退職給付会計に戻ります。
今回は、退職給付会計の前回の続きから「退職給付制度間の移行等に関する会計処理2回目(退職給付債務が増加または減少する場合とは)」についてです。
退職給付会計の他の記事は、カテゴリー退職給付会計 メニューを参照してください。
退職給付制度間の移行等には、大きく2通りのパターンがあります。
退職給付制度間の移行または制度の改訂により、退職給付債務が増加または減少する場合として考えられるものは以下のとおりですが、①と②は1つ目の「退職給付制度の終了」、③は2つ目の「退職給付債務の増額又は減額」に該当します。
①退職給付制度が廃止される場合(全部終了)
退職金規程の廃止、厚生年金基金の解散、適格退職年金制度の全部解除、確定給付企業年金の終了等をいい、支払等の有無は問いません。
②退職給付制度間の移行または退職給付制度の改訂により、退職給付債務がその減少分相当額の支払等を伴って減少する場合(一部終了)
退職給付制度間の移行には、確定給付型の退職給付制度から他の確定給付型の退職給付制度への移行や、確定給付型の退職給付制度から確定拠出年金制度への移行があります。
また、退職給付制度の改訂には、退職金規程や年金規約等の改訂があります。
③退職給付制度間の移行または退職給付制度の改訂により、退職給付債務が支払等を伴わずに増加または減少する場合
会計処理上は、「退職給付制度の終了」については、終了時点で、当該退職給付債務の消滅を認識し、終了した部分に係る退職給付債務と、その減少分相当額の支払等の額との差額を「一時の損益として認識」処理します。
未認識項目(未認識過去勤務債務、未認識数理計算上の差異、会計基準変更時差異の未処理額)も終了部分に対応する額を「一時の損益として認識」処理します。
いずれも認識された損益は、原則として特別損益に純額表示します。
また、「退職給付債務の増額又は減額」は、過去勤務債務に該当し、原則として各期の発生額について平均残存勤務期間以内の一定年数で按分した額を毎期費用処理(遅延認識)します。
「退職給付債務の増額又は減額」が行われる前に発生した未認識項目(未認識過去勤務債務、未認識数理計算上の差異、会計基準変更時差異の未処理額)は、従前の費用処理方法と費用処理年数を継続して適用します。
次回は、「退職給付制度間の移行等に関する会計処理3回目(退職給付制度の終了とは①)」について解説をします。
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今回は、「老齢基礎年金1(新法と旧法)」です。
老齢基礎年金は、全国民共通に支給される年金給付ですが、昭和61年4月から改正実施された新国民年金法(以下「新法」といい、旧国民年金法を「旧法」といいます)により従来の老齢年金、通算老齢年金に代えて新たに創設された年金です。
老齢基礎年金の対象者は、大正15年4月2日以後生まれの者です。
以下のいずれかに該当する者については、旧法が適用されます。
①大正15年4月1日以前に生まれた者
②新法の施行日(昭和61年4月1日)前に旧厚生年金保険または旧船員保険の老齢年金の受給権が発生した者
③新法の施行日(昭和61年4月1日)前に共済組合の退職年金または減額退職年金の受給権が発生した者で昭和6年4月1日以前に生まれた者(新法施行日の前日までに55歳に達している者)
次回の解説は、「老齢基礎年金2(支給要件①)」です。
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今回は、「国民年金の事業に必要な費用14(有限均衡方式)」です。
年金制度は、個人の視点から見た場合、20歳で加入してから65歳で年金を受給し、80歳、90歳まで給付を受けるとして60~70年以上の長期間ではあるものの、限定された期間で保険料の支払いと給付の受給という関係で収支の損得を意識されるはずです。
公的年金制度の収支は、個人の集合体としての保険料収入と給付の支給は国が存続する限り永遠に続くことになり、国庫負担や年金積立金の運用収入を加えた年金財政の均衡(年金財政の永続性)は、公的年金制度の存続にとって非常に重要な意味を持っています。
従来、年金財政を均衡させるための考え方は、将来にわたるすべての期間において年金財政を均衡させるという考え方(「永久均衡方式」)でしたが、平成16年の財政再計算から将来の一定期間(「財政均衡期間」)ごとに年金財政を均衡させるという考え方(「有限均衡方式」)に変更されました。
今後、5年ごとの財政再計算時に概ね100年間(「財政均衡期間」)の財政の均衡を図るため、将来見通しを作成することになっています。
平成16年の財政計算では、財政均衡期間を平成112年度(2100年度)までの95年間とし、最終年度(平成112年度)の積立金の規模を前年度支出の1年分とする将来見通しを作成しています。
次回の解説は、「老齢基礎年金1(新法と旧法)」です。
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今回は、「国民年金の事業に必要な費用13(積立金の運用収入)」です。
積立金は、「年金積立金管理運用独立行政法人」に寄託して運用を行っています。
平成12年度までは、旧大蔵省資金運用部に預託していましたが、法改正により厚生労働大臣による自主運用が導入され、「年金資金運用基金」が厚生労働大臣の定める運用の基本方針にしたがって、民間の運用機関を活用しながら運用を行うようになりました。
その後、平成13年に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」に沿って、平成16年の法改正により年金積立金の管理・運用の専門機関として平成18年4月1日に設立された「年金積立金管理運用独立行政法人」が、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の資金運用業務に特化(住宅融資、教育資金貸付斡旋の業務は他の独立行政法人に承継)し、また学識経験者からなる運用委員会を設置して運用の基本方針の策定や業務執行の監視を行っています。
国民年金の運用利回り(名目)は、「厚生年金・国民年金 平成16年財政再計算結果」報告書によると
平成12年(2000)以前の過去15年平均で4.9%(厚生年金は5.4%)
過去10年平均で4.5%(厚生年金は4.8%)
過去 5年平均で3.9%(厚生年金は4.1%)でしたが、
平成13年度以降15年度までの自主運用による運用利回り(名目)は、
年度ごとに1.29%、-0.39%、4.78%
(厚生年金は1.99%、0.21%、4.91%)でした。
また、平成16年度の運用利回り(名目)は、「平成16年度 厚生年金保険および国民年金における年金積立金運用報告書(平成17年10月)」によると
国民年金は、2.77%(厚生年金は2.73%)でした。
平成16年財政再計算における平成112年度(2100年度)までの財政見通しの経済前提の一つである運用利回り(名目)が、平成16年度で国民年金1.57%(厚生年金1.69%)であったことから、平成16年度の実績は、経済前提を1%以上上回っており、今後報告される「平成17年度 厚生年金保険および国民年金における年金積立金運用報告書」で想定される結果を含め早くも財政見通しとしての信憑性が疑問になってきました。
次回の平成21年度財政再計算の財政見通しが平成16年度とあまりに乖離すると「年金財政の均衡」のために新たに導入した「有限均衡方式」(次回解説します)による100年安心計画が最初の財政計算で積立金の規模の在り方(平成112年度の積立金の規模を前年度の支出の1年分として保有)を含めて再び抜本的な見直しが必須となり、大きな政治問題に発展しかねません。
次回の解説は、「国民年金の事業に必要な費用14(有限均衡方式)」です。
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